ああもう、止めてほしい。
こんな時に夕陽に照らされた本物に出くわすとか。
「…どったの、もう子供は帰る時間っしょー?」
近づいて、頭を撫でてくるとか。さっき苛めたことをなかったことにして笑ってくるとか、ホントに。
「、、おちび、泣いてるの?」
どうしたの、なんかあったの。
だから、ガキ扱いしないでよ。泣きたくなるんだ、そんなに優しくて残酷な仕打ち。
俺はアンタにとって、ガキみたいな後輩だって、それだけなんだって現実を突きつけられてる。
すがり付くように目の前の先輩に抱きついた。
『好きだよ、アンタが好き。俺を子供扱いしないでよ』
「??おちび、英語じゃわかんないよ」
『手塚部長じゃなくて俺を見てよ』
「え、手塚がなに?」
早口の英語で捲し立てる越前に抱きつかれ、菊丸は困ったように背中を撫でた。
泣くなんて最低だと思う。ガキだと思う。けれど。
『アンタが欲しいよ、愛しい。エージ。』
絶対わからない英語を早口で伝える。
でも"NEED"と"LOVE"の口の動きは動体視力で捉えたみたいで真っ赤になりながらも頭を撫でて抱き締めていてくれた。
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「おちびって、手塚が好きなの?」
「は?」
あの後二人で歩いて帰って、ずっと無言だった菊丸先輩が意を決したように越前に問いかけてきた。
「なんでそうなるんすか」
「だってさっき手塚がneedとかラブとか言ってたし。…普段からも、なんか手塚と仲いいし?もしかして昨日俺にきつく言ってたのって、そういうことなのかなあーっ…て」
思って、さ?と伺うように越前に問いかける菊丸に越前は呆気にとられた。と同時にガクッと肩を落とす。
肝心な単語は聞いてるくせに、結びが甘い。
「…んにゃろ…」
「え、やっぱりそうなの?」
「チガイマス」
「あ、そうなの?良かったー、おちびが相手じゃちょっとヤダなーって思ったからさ」
「…何で?」
「だってさー手塚っていっつもおちびばっか気にかけてるしさ?実は妬けちゃうんだよね、すっげー羨ましいもん」
「へー…」
「…え、と…ほら、俺かまってちゃんだから!友人として!」
「わざわざ言い直さなくてもバレバレだから」
「え?なに?」
「さっさと帰りますよ」
「なんだよー、泣き虫おちびめ!」