「…何アレ…」
可愛なんて思ったこと、カルピン以外ないのに。
…同時に心臓あたりが痛くなった。
「新しいグリップ、調子良さそうっスね」
快調に飛ばす菊丸に、リョーマは珍しく自分から声をかけた。
練習試合を終え、一息ついた菊丸はコートからでてタオルで汗を拭いていたところだった。
「おー、おちび。好調好調絶好調!今ならおちびに勝っちゃうかもねーん、なんちって!」
デレデレへらへらして締まりのない笑顔を向けられて、越前の機嫌は心臓の痛みと同じぐらい悪くなる。
「たかがグリップテープぐらいで何浮かれてんすか?」
「む。たかがじゃにゃいよ、めちゃくちゃレアなんだから!」
「そーっスね、大好きな手塚部長からもらったもんですからね」
越前の言葉に、菊丸は一瞬凍りついたように目を見開く。
「っていうかアレ自分のことだったんだ。そーっスよね、部長に告白してOKもらえるはずないし」
「な、何、言って、」
段々口ごもる菊丸に、越前は構わず口が続く。
「振られた人を自分と重ねてたってわけですか。同情ですらないんだ」
「自分が部長に告白して、あんな風に言われるのが嫌だっただけでしょ?」
「要するに自己満足?最低だね、菊丸センパイ」
「手塚部長が振り向いてくれるとか健気に思っちゃってるわけ?ないでしょそんなの」
吐き出しているのに一向にスッキリしない。それどころかもっと憂鬱さが増してくる。
アンタのせいだ。アンタの。
「部長はアンタの事なんか「やめろ越前」
制止をした声に振り向くと、厳しい表情をした桃城がラケットを肩に置いて立っていた。
「何スか」
キッと睨むと、桃城はハーと盛大にため息をついて何も言わず顎をあげる。
越前がハッと菊丸を見ると、これ以上ないほど青ざめて下を向いて口元を震わせていた。
「エージ先輩」
「…」
「エージ先輩」
「え!?あ、何??」
パッと顔をあげて、何とか笑顔を取り繕うとするが顔色はよくない。
「…あっちで大石先輩が探してましたよ?早く行かないと」
「あ、うん、ありがと」
震える手でラケットを掴んで菊丸は越前と桃城の横を通りすぎて走っていった。