「コート内でもめごとか」




響く声に越前より菊丸の方がビクッと震えた。
恐る恐る振り向くと、生徒会から戻ったらしいジャージ姿の手塚が仁王立ちで立っていた。周りの大石や河村など部員らが苦笑している。


「や、やば…」
「俺もめてないッス」
「グラウンド20周だ」


有無を言わさず菊丸と越前にランニングを言い渡す手塚に、菊丸は慌てて手塚の前にでる。


「手塚、待った!おちびは違うんだ、俺が勝手に…」
「聞こえなかったのか」
「…はい」


はあ、とため息をついて越前はさっさとコートからでた。
菊丸も「あー待っておちび!」と追いかける。
その後を手塚は見送ると、残りの部員に「次の練習準備はどうした」と促した。




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「そりゃおめーがわりぃな」
「なんで?」


ハンバーガーを頬張りながら自分を悪い呼ばわりする桃城を越前は睨む。
今日は自転車がないので歩きでマックお持ち帰りだ。
越前はつまらなそうにファンタを飲み込んだ。

「なんでってエージ先輩も言ってただろ?相手のこと考えろって。おめーもまだまだだなー、まだまだだぜ」
「子供扱いしないでよ」
「子供だっての。初恋もまだなんだろー?お前」
「そーゆー自分はどうなんすか」
「お、聞きたいか!?そーだなーどうしてもってんならー」
「あ、部長だ」

無視して歩いた先の向かい側の歩道に手塚を見つけた。どうやらスポーツ用品店からでてきたようだ。その後を大石が続いてでてきて二人ではなしをしている。


「あ、」


そのさらにあとに、出口からでてきたのは菊丸だった。何やら肩をおとしてショボンとしている。その様を大石が苦笑して肩を叩いていた。


「そーいやエージ先輩、お気に入りのグリップテープなくなったって言ってたなあー」


思い出したように隣で言う桃城に、越前もそんなことを大声でボヤいてた菊丸の姿を部室でみたことを思い出す。
あの様子から、おそらく品切れだったのだろう。
すると、手塚が何かを取り出して菊丸に渡した。
菊丸は驚いて受けとると、その手に渡されたのはグリップテープだった。手塚が使っているものと同じ色だ。
手塚が何かを菊丸に言うと、菊丸は目を丸くして問いかけを繰り返していた。
手塚は頷いて、大石が笑って菊丸に何か言う。
菊丸は少し遠慮気味に手塚の顔色を伺うように上目遣いに見るが、手塚が何か言うと明るい笑顔になった。


「あ」



その瞬間わかってしまう。恋愛なんて知らないのに。




−−−−あの人は、手塚部長に恋をしている。






だってあんな笑い方、見たことない。あんな、幸せを噛み締める柔らかい笑顔みたことない。



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