子どもと大人とそして猫



love?
あー、訳ね。
愛でしょ、誰だって知ってるじゃん。
中身の意味なんか聞かれても興味ないし。
それってテニスに必要なわけ?
だったらいーじゃん。別に。

は?好きなタイプとかアンタに関係ないでしょ。
もーいい?俺忙しいから。








「みたぞー、おちび」



部活中にいきなり抱きついたかと思えば、鷲掴みされてぐりぐりと頭を攻撃された越前は「痛いっす」と菊丸に抗議の声をあげた。

部長が生徒会でいないことをいいことに菊丸は大体はめをはずす。大石副部長は菊丸には甘い。それをわかってるからたちが悪い先輩だと思う。ただ、本当にまずいことはやらないので小悪魔だとは思うが。


「サーブ練習中じゃないんすか菊丸先輩」
「んなことより、お前ねー!女の子にあんな言い方ないだろー?」
「話突拍子すぎてわかんないんすけど」
「告られたじゃん、昼休み!」


あー、昼間のかと越前はため息をついた。


「関係ないとか忙しいとかさ、あれじゃ告白してきた子が泣くのも当たりまえでしょ?」
「覗きとかしてる先輩に言われたくないっす」
「え、あ、まあ…しょーがないじゃん、屋上でサボろうとしてたらお前たちが来ちゃうんだもん!」


逆ギレですか、と追い詰めようとすると意外に困ったような顔で見つめてくるものだから少し驚く。

「ん、ま、勝手に聞いてたのはごめん。でもさ、相手は勇気振り絞ってお前に告白してきたんだからさ、もっと優しく断れよ」
「日本じゃ、好きでもない相手に好意振るまいますからね。そんなんじゃ、余計相手に希望もたせることになるんじゃないすか。俺、そんな愛想振る舞える体力ないんで」


別に相手の今後はどうでも良かったけど、好きでもなんでもないやつに優しくしろなんて言う菊丸に少し腹がたってもっともらしい意見をならべてみる。
菊丸なら『まったくおちびは子供だにゃー』とかで苦笑いするかと思ったが、それを聞いて菊丸の表情が苦々しく曇るだけだった。


「でもさ、全然好きじゃない子でも自分に好意持ってくれてるって嬉しくない?」
「迷惑っス」


さっきからやけに向こうに肩をもつな、とリョーマは菊丸から逃れるように腕を外した。が、いきなり菊丸がリョーマ肩を掴んで真っ正面に向き直る。
すると怒った表情がそこにはあって。


「迷惑って言い方ないじゃん!少しは向こうの気持ち考えろよ!」
「はあ?!なんで先輩にそんな、こ、…」



怒鳴る菊丸に言い返そうとするが、ギョっとした。
猫みたいに丸い瞳は今にも涙がこぼれそうになっていたからだ。


「お前が好きなやつからそう言われたら、すっげー悲しいじゃん?」
「…好きなやつなんかいないっスよ」


真っ直ぐな問いかけに否定ができなくて、せめてもの抵抗に呟いてみたものの菊丸は苦笑いするだけだった。


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